呼吸(いき)するように愛してる
匠くん家の敷地に入った辺りで、玄関の扉が開いた。

制服を着た女の子が出てきた。匠くん達と同じ、学校指定のジャンパーを着ているから、要お兄ちゃんか、匠くんのお友達なのかな?

思わず私は、そこで足を止めてしまった。

「わざわざありがとう、美里」

女の子が玄関を一歩出た所で、中から声がかかった。女の子は立ち止まって、身体を捻るようにして振り向いた。

匠くんだ……声をかけたのは、匠くんだ。……『みさと』って、呼んだ。

嫌な感じで、心臓がドキドキしてくる。その女の子をジッと見てしまう。

艶のある黒髪を、高い位置でポニーテールにして。背がスラッと高い。私には、横顔しか見えないけど、その横顔がすごくきれいだと思った。

「こっちこそ、押しかけてきてごめん!どうしても、直接渡したくって……」

嫌な感じのドキドキが、どんどん早く強くなる。

「直接渡したくって」て、バレンタインデーのチョコだよね……?

「匠くんが淹れてくれたミルクティー、おいしかった!今度来た時も、お願い」

「調子にのるな!」

短い会話だが、二人の親しげな雰囲気が伝わってくる。

紅茶が渋くて飲めないけど、でもどうしても“ミルクティー”が飲んでみたい!と我が儘を言った私。そんな私の為に、カフェで出しているミルクティーを、匠くんが聡くんに教わってくれた。

それが、匠くんのミルクティーだ……

同じものを、その人…美里さんにも作ってあげたんだ……

私だけの物だと思っていた“匠くんのミルクティー”。それを、美里さんに獲られてしまったような気持ちになる。

要お兄ちゃんも、匠くんもモテる。小学校の高学年くらいから、バレンタインデーにはチョコを家まで渡しにくる女の子はいた。

私が知っている限り、匠くんにチョコを渡しに来た女の子は、玄関先で渡して帰っていた。

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