呼吸(いき)するように愛してる
聡くんが、匠くんとともママを駅まで車で送って行く。ともママと二人で匠くんが暮らす町に行って、荷物を片付ける。

大きな荷物は、もう宅配便で送ってあるそうで。

「そろそろ行こうか…」

聡くんが声をかけて、助手席に匠くん、後部座席にともママが乗車する。

匠くん家の敷地の中を、ゆっくりと車が動いていく。

お母さんとお姉ちゃんは、車に向かって手を振る。車の中では、匠くんとともママが手を振っている。

私は両手をギュッ!と握りしめ、瞬きもせずに車を見つめていた。匠くんへのお別れの言葉なんて、今さら何を言えばいいのかわからなかった。

匠くん家の敷地を出る時、助手席の窓ガラスが下がった。

「美羽っ!!」

手を振りながら、私のよく知っている微笑みを浮かべた匠くんが、私の名前を呼んだ。

「匠くんっ!!」

匠くんの声に、弾かれたように走り出した私は、車の後を追った。

あっという間に、車との距離ができてしまっていた。助手席から顔を出すように、匠くんは手を振り続けてくれていた。

「匠くんっ!お休みの時は、帰ってきてねっ!!」

ずっと言いたかったその言葉だけを叫んだが、車は左折して行ってしまったので、匠くんに届いたかどうかはわからない。

大きく息を吐きながら、道路の端にしゃがみこんだ私。涙が、次から次へと溢れてきて、肩を震わせながら嗚咽した。

お母さんが迎えに来てくれて、支えられるようにして立ち上がり、家に戻った。

今日起きたよくわらない事で、頭の中はグチャグチャだったのに、今はただ寂しい気持ちでいっぱいだった。



*****



匠くんが行ってしまったあの日、お母さんは

「もう、会えない訳じゃないんだから……」

そんな風に言って、私の背中を擦りながら慰めてくれた。

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