ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
 甦る記憶の中の、朝の教室で交わした挨拶。

 テスト直前の神頼み。毎日トレードし合った弁当のおかず。

 放課後の体育館に鳴り響くホイッスル。平らな床を擦るシューズの音。手渡してくれたスポーツドリンクと、タオルの白さ。

 暗い帰り道、のんびり並んで歩きながら見上げた綺麗な星空。

 コンビニで買い食いした、お気に入りの菓子パンの味。

 とるに足らない、たわいもない話と、ふたり分の笑い声。

 それらのすべてを思い出すたび、胸を締めつけられるほどに懐かしくて愛しくて、間違いなく宝物だったと言い切れるあの日々。

「もう一度、あんな風に叶と笑いたかった。ちゃんと笑いたかった。今ならお互い本当に笑い合えたはずなのに、もう……」

 うつむいた三津谷さんの目から、涙がポロポロと流れ落ちた。

「叶は、どこにもいないんだな……」

 後はもう、何度も鼻を啜る音と、震える吐息が聞こえるだけ。

 三津谷さんが大きく息をするたびに上下する肩を見ながら、あたしは自分の左目の熱さにじっと耐えて、心の中で語りかけていた。

 ねぇ、三津谷さん。叶さんもね、三津谷さんともう一度笑いたかったんだよ。

 いつかそんな日がくることを、忘れられない苦い痛みと共に、本当に心から願っていた。

 でも、そんな日はもう、こないから。

 だからね、願うしかないんだ。

 三津谷さんが、ちゃんと笑えていることを。

 嘘じゃない笑顔で、嘘のない言葉で、心の底から笑って生きてくれさえすれば、それが俺の隣でなくてもいい。

 だから……


『なあ、お前いま、ちゃんと笑えているか?』

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