どうしてほしいの、この僕に
 反対側から優輝もふとんに入ってきた。ドキッとしたけど、彼は必要以上に私に近づこうとはしなかった。その近すぎず、遠すぎない距離がなんだか心地いい。
 それにしてもこのベッド、かなり広い。ふとんはふかふかだし、マットレスは体圧分散ってヤツじゃないかな。身体が全然痛くない。
 しかも隣に寝ている優輝の体温が私のほうまで伝わってきて温かい。目を閉じるとすぐに意識が飛んだ。

 もうごちゃごちゃ言わないで、素直に「しばらくお世話になります」で済ませればよかったのに、と隣で安らかな寝息を立てる優輝を見ながら後悔する。おそらく不規則で多忙な毎日を過ごしている彼にとって、私の遠慮は時間の無駄でしかなかったはず。
 ま、おかげでいろいろなことがわかったんだけどね。
 しかし……。
 この状況で、幸せな気分にならない女子はいないんじゃないかと思う。
 私の手を握って無防備な寝顔を晒しているのは、世の女性を魅了している守岡優輝なわけで、なんだかわからないけど私はこの寝顔をひとりじめできちゃっているわけで。
 優輝から引き出した情報は、私にとって気が重いものだったのに、ほとんど落ち込んでいないのもたぶん優輝のおかげなのだ。
 さて、そろそろ起きようかな、と優輝の手をそっとほどいたとき、玄関のほうで物音がした。
 ガチャンと戸が閉まり、誰かが廊下を歩いていく。大股で力強い足音から察するに男性?
 さすがに私は隣で眠っている人の肩を揺すった。
「あの、誰か入ってきたみたいですけど!」
「ん? 高木さんだろ」
 うっすらとまぶたを開けた優輝が、面倒くさそうに言った。
「マネージャーさんですか?」
「そう。朝飯買ってきてくれたんじゃねーの」
「えっと、私、どうすれば? 隠れたほうがいい?」
 慌てている私を見て、優輝はプッとふき出す。
「好きにすれば。未莉のぶんもあるけど、俺が食っておくし」
「えっ、私のぶんもあるんですか」
「たぶん」
 優輝はふとんを跳ねあげて上体を起こした。
「じゃ、お先」
 ベッドをおりたかと思うと、寝室のドアを開け放ち、廊下へ消える。
 取り残された私はベッドの上に座り込んだまま、茫然としていた。
「おーい、未莉ちゃん。一緒に食べようよ」
 リビングルームのほうから高木さんの声が聞こえてきた。
「は、はい」
< 28 / 232 >

この作品をシェア

pagetop