どうしてほしいの、この僕に
 私は辺りを見回し、パジャマの上に羽織るものを探す。だけど優輝の服を勝手に拝借するのはやっぱり気が引けた。仕方がないから廊下に出て自分のコートを着る。
「おはようございます」
 廊下からリビングルームを覗くと、高木さんがおいでおいでとジェスチャーで呼んでくれた。優輝はコート姿の私を見て一瞬眉をひそめたけど、何も言わなかった。
「昨夜は大変だったね。紗莉さんから着替えを預かってきたよ」
 高木さんが指さしたソファの脇に、大きなショッピングバッグが置いてある。
「姉が、私に?」
「うん。紗莉さんもすごく心配していた。でも今はうちの……」
 そこで突然、優輝が「ゲホゲホッ」と激しく咳き込んだ。
 私が目を丸くしている間に、高木さんはキッチンへ向かい、冷蔵庫を開け、マグカップに牛乳をなみなみと注いで持ってくる。優輝とは違い、見るからにがっしりとした男性的な体格の高木さんだが、さすがはマネージャー、私なんかよりはるかに動きが機敏だ。
「飲みものを用意していなかったね。ごめん」
 私の前にもコトンとマグカップが置かれた。
「ありがとうございます」
「ここ、優輝の部屋になっていてびっくりしたでしょう」
 高木さんは床に腰をおろして私に笑いかけた。
 さっきから優輝が無言なのは、高木さんがいるからなんだろうか。ちらちらと隣をうかがいながら返事をする。
「そうですね。だけど、いずれにしろ姉は来る気がなかったと思うし、優輝が来てくれて本当に助かりました」
「あれー!? 今『優輝』って言ったね。さてはふたりきりで、なんかあったな?」
「何もないよ」
 優輝がぶっきらぼうに言い放った。
 すると高木さんはため息をつき、慰めるように優しい口調で言う。
「ま、気持ちはわかるけど、少しは機嫌直せ。残り時間は少ないんだ。だけど順調に進めば1週間で終わる」
「順調、ね。そんなわけないでしょう。昨晩だって僕は未莉に助けられたわけだし。最悪の場合、2週間かそれ以上かかるかもしれないのに、憂鬱にならないほうがおかしい」
 残り時間は少ない? 昨晩私に助けられた?
 高木さんが買ってきてくれたホットドッグをほおばりながら、なんの話だろうと思っていると、優輝が突然私のほうへ向き直った。
「というわけで、今夜から地方ロケで家を空ける。その間、部屋は好きに使っていいから」
「え……?」
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