強引上司がいきなり婚約者!?
『うるせえ。黙って俺の世話になっとけ。お前はもうあの貧弱野郎のものじゃねえんだから、あいつの金は使わせない』
さり気なく傷口に塩を振った上、強引に話を終わらせてしまう。
その後兎川さんが捕まえたタクシーに押し込まれ、結局藤也の置いていったお金はアパートまでのタクシー代に消えたのだけど。
これまでも何度か兎川さんのアシスタントにつくことはあったものの、現在進行中の案件はひとつもない。
彼からなにか話しがあるとすれば、十中八九昨日の件だ。
兎川さんが私のデスクのすぐ横で足を止めたので、諦めておとなしく顔を上げる。
私を見下ろす黒い目が、眉を下げた私を映してスッと細められた。
同時に紙の束をポンッと渡される。
私は反射的にそれを両手で受け取った。
「小枝。ついでにこれも、データまとめといてくれるか」
「あ、わ、分かりました」
主任がそれだけ言って背を向けたので、私は拍子抜けしながらも胸をなで下ろす。
そっか、そうだよね。
兎川さんだってきっと、昨日のことはなかったことにしたいはず。
お互い恋人との修羅場に遭遇したことなんて、黙っておくのが大人のマナーだよね。