強引上司がいきなり婚約者!?
「そうか。それはよかった」
兎川さんは私の答えにホッとしたように何度か頷くと、小さく息を吐いた。
そしてなにかを強く決意した黒い瞳が真っすぐに私を射抜く。
私はまるで彼のその視線に撃たれたみたいに、背中がピリピリと痺れるのを感じた。
ヤバい、私、なにか間違えたかな。
なんか、主任の触れてはいけないスイッチを入れちゃったような気がする……。
兎川さんのどこか遠慮がちだった雰囲気が立ち消え、代わりに自信があってちょっぴり強引ないつもの彼が戻ってきた。
私の苦手な俺様オーラだ。
「あっ、あの。昨夜はすみませんでした。やっぱり食事代はお返しします。あの女性のことも、絶対、誰にも秘密にしま……」
「その前に小枝にひとつ提案がある」
とりあえず慌てて謝罪する私を遮り、兎川さんがスーツの内ポケットから一枚の紙を取り出す。
「て、提案?」
彼はふたつ折りにされた白い紙を開き、たじろぐ私の前に差し出した。
紙の上には主任のキレイな手書きの文字が並んでいる。
「俺とお前の口止め協定だ」
兎川主任は獲物を見つけて狩りを楽しむ王様のように、イジワルに微笑んで私を震え上がらせた。