強引上司がいきなり婚約者!?

「カラダだけ、って……」


だけど私には、大声で彼を詰ることもできない。

自分の意見を主張することに慣れていないから、こんなふうに侮辱されても怒りを露わにする方法を知らないのだ。

それに、ここは日曜の夜の高級フランス料理店だ。
お店の雰囲気を壊すわけにはいかない。

大きな声を出したら、周りの人に申し訳ない。
ここで泣いたら、藤也にだって迷惑な女だと思われる。

この後に及んで彼への体裁を気にしてしまう自分がバカらしくて、私は俯いて震える唇を噛み締めた。
膝の上で両手をぎゅっと握る。

藤也には分かっていたのだ。
この場所で、このタイミングで言えば、私が決して反論しないことを。

気の強いほうでない私には、黙って頷く以外の選択肢はない。

だからわざわざディナーに誘って別れを切り出した。
私になんの抵抗もさせず、面倒なことはなにひとつ起こさず交際を終わらせられるから。

最低だ。
ほんとに、なんて酷い男なんだろう。

今思ったことをそのまま叫んで、ワインの一杯でもぶっかけてやれたらいいのに……。


「最っ低ね! ふざけんな、このクソ男! あんたみたいなやつ、こっちから願い下げよ」
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