強引上司がいきなり婚約者!?

突然、ぐるぐると頭の中を回っていた言葉が再生されて、自分でも知らぬ間につい口に出してしまったのかと思った。

びっくりして顔を上げてみると、目の前に座る藤也も呆気にとられている。


「ここ、もちろんあんたの奢りよね。その程度で許してあげるんだから私に感謝しなさい」


続いて後ろのほうからガタガタと席を立つ音が聞こえたので、私は藤也の視線を追ってそちらを振り返った。

店内の注目を集めていたのは、観葉植物を挟んで私の後方の席に座っていた男女だった。

目の覚めるような真っ青のワンピースを着た背の高い女性が、胸を張り、ハイヒールを踏み鳴らして去っていく。

私と背中合わせに座っていた男性は、なんと頭から赤ワインを被っていた。
少し長めの黒い癖毛から雫が滴り、薄い水色のシャツに染みを作る。


「ったく、すげえな。めちゃくちゃ豪快」


手の甲で顔にかかったワインを拭いながら、男性がどこかホッとしたように呟いた。

覚えのあるその後ろ姿と声のトーンに、私はハッとして肩を揺らす。

こ、この男の人って、もしかして。

私はフカフカの椅子の背もたれに手をかけて、身を乗り出し、背中を向けて座る男性の横顔を覗き込んだ。
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