伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
守るべき大切な女性を傷付けてまで、自分は何を得ようとしていたのか。

得るどころか、彼女の信頼を失ってしまった。

許されなくていい。だが、抱きしめずにはいられなかった。

クレアが泣き止むまで、そばにいたいとライルは思った。

……なんて俺は傲慢で、欲深くて、情けない……!

彼女に涙させているのは、他でもない自分なのに。

ライルは強い自己嫌悪に襲われ、唇を強く噛んだ。


しばらくすると、クレアの嗚咽が少しずつ小さくなっていった。

ライルに優しく背中を上下にさすられ、次第に落ち着きを取り戻していく。

その間、ライルは「悪かった」「すまない」を繰り返し、消え入りそうな声で呟いていた。抱きしめられているため彼の顔を直接見ることは出来なかったが、とても苦しそうな表情をしているのではないか、とクレアは思った。

「……ライ……ル様……」

ライルの胸に顔を埋めていたので、少しくぐもったような声になったが、ライルの耳にはちゃんと届たようだ。

ライルはクレアから体を離す。かろうじてクレアの涙は止まっていたが、パールグレーの瞳の周りを縁取る長いまつ毛は、しっとりと濡れていた。

「……クレア……ひどいことをして、悪かった……」

ライルは膝と両手をシーツの上について、頭を垂れた。

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