伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ガッシャーンッ……

何かが割れるようなけたたましい音が辺りに響き、ローランドとジュディはハッとして振り返った。急いで音のした方へ駆け付けると、地面の上で粉々に砕け散った花瓶の破片をじっと見つめているクレアがいた。

「クレア様……！ お怪我は……」

ありませんか、と続けようとしたジュディだったが、クレアの青白い顔を見て、自分達の会話を聞かれていたことを悟った。

「クレア様……」

二度目の呼び掛けで、クレアはようやく視線を上げて、ローランドとジュディの顔を交互に見た。

「……さっきの話、本当なの……？」

少し間があって、ローランドが静かに答える。

「先ほど、アンドリュー様がいらして、知らせて下さいました。アンドリュー様も詳しいことはご存知ではなかったので、今、調べに行かれているところです」

「……私も行くわ」

「あ、クレア様っ！ お待ち下さい！」

クレアはジュディが止めるのも聞かずに、屋敷の中に戻った。長い廊下を全力疾走し、玄関を目指す。だが普段着と違い、ドレスの裾が足にまとわりつくので、足が思うように前に進まない。そのため、玄関ホールでジュディに追い付かれてしまった。

「クレア様！落ち着いて下さい。アンドリュー様を待ちましょう」

「離して！私も行って確かめなきゃ！」

ジュディに掴まれている腕を回して、何とか振りほどき、玄関の扉を開けようとしたその時。。

「あっ！」

同時に、外から入ってきた誰かの体に、思いきり顔をぶつけてしまった。

「クレア！？ 大丈夫かい！？」

ハッと、顔を上げると、茶色の髪の青年が少し焦ったようにこちらを見つめている。

アンドリューだった。


< 206 / 248 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop