伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ドレスの裾を踏んでしまわないように注意を払いながら書斎まで案内してもらい、ドアをノックするとライルの返事があった。

それに導かれるように、一人で中に入る。

ライルは執務机で書類に目を通していたが、クレアが現れると同時に視線を上げた。

その緑の瞳がハッと息を呑んだように大きく見開かれる。

無言で凝視しているライルの様子に、クレアの心は不安でいっぱいになった。

「……こういう格好に慣れてなくて……やっぱり変ですか……?」

クレアの問いで、ライルの顔に笑みが戻る。

「いや、とても良く似合ってる」

書類を机に残し、立ち上がるとクレアの元に歩み寄った。

「とても綺麗だから、見とれていたんだ」

「……」

誉められて嬉しい。顔が熱を帯びていく。でも、こういう時、何と答えていいのか分からず、クレアは困ったまま視線をそらした。

……こういう時、教育を受けた令嬢なら、何か、気の利く言葉で返すんだろうけど……。

耳の裏まで真っ赤に染まったクレアを見て、ライルは思わず彼女をそっと抱きしめた。

「え、あ、あの、ライル様……?」

突然のことに戸惑うような声が腕の中で聞こえる。

「こんなにも可愛い君が来てくれて俺は幸せだよ」

「……で、でも、今は二人きりですよ……? そんなフリしなくても……」


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