伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
恥じらいながらも、ちゃんと理性を忘れずに言葉を返してくるクレアに、ライルは少し複雑な心境だった。

婚約者のフリを頼んだのは自分だ。自分の行動を演技だと受け取られてしまうのは、今はまだ仕方のないことなのかもしれない。

ライルはゆっくりと腕を離した。

「晩餐まで時間があるから、少し屋敷の中を歩こう」

「でも、お仕事中だったのでは……?」

「いいんだ。ちょうど切り上げようと思っていたところだ」

廊下に出て、クレアの手を取ると自分の腕に絡めさせた。

互いの体が近くなり、まるで夫婦か恋人同士のような腕の組み方に、クレアの心は落ち着かない。

ああ、そうだ……私はここではライル様の婚約者……これが当たり前……早く慣れなきゃ。

さっきまでそばに控えていたジュディの姿は無かった。二人きりのところを邪魔してはならないと、別の仕事に戻ったのだろう。

「ライル様」

歩きながら、声を掛ける。

「このドレス、ライル様が選んで下さったと聞きました。ありがとうございます。それに、お部屋もとても素敵で……」

「気に入ってくれたかな?」

「はい、私なんかには勿体無いくらいです!」

瞳を輝かせて答えるクレアに、ライルも満足そうに口元を綻ばせた。



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