伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
すると、伯爵夫人は初めてクレアの存在に気付いたかのように、ゆっくり振り向いた。

そして、クレアの頭の頂点から靴の先まで、じっくり見たかと思うと、すぐさまその目に軽蔑の色を浮かべた。


「まぁ……まるで、ネズミみたいな娘だこと」


……え?

思ってもいなかった言葉を投げかけられて、クレアは目を丸くした。

「そんな薄気味悪い瞳の色で見ないでちょうだい。それに髪の色も暗くて、本当にみすぼらしい娘ね」

「……」

確かに、貴族と庶民では着ている服の素材には明らかな違いがあるので、庶民の外出着でも貴族の目にはみすぼらしく映るのかもしれない。

しかし、夫人が今言ったのは、クレアが持って生まれた容姿そのもののことだ。

……薄気味悪い……?

クレアもこの瞳が人より色が薄いということは知っている。

でも、これまでそんなことを言う人は周りにいなかった。

自分の姿に自信があるわけではないが、そこまで言われるほどに、自分は醜いのだろうか。

夫人の心無い言葉にクレアは傷付き、うつむいた。

「今さら愛人の娘を引き取るなんて、旦那様にも困ったものだわ」

「……」

……愛人……。夫人はクレアの母をそう表現し、同時にそれはクレアの胸にグサリと突き刺さった。

伯爵と夫人が結婚する前に、クレアの母は伯爵と別れ、連絡すら取っていなかった。なので、決して愛人ではないのだが、この気位の高い夫人からすれば、自分を差し置いて伯爵の心を奪った身分の低い女など、愛人扱いで充分だった。

賛成してくれた、とお父様は言ったけど、自分はこの人に歓迎されてない……。

でも、父は嘘をつくような感じの人ではなかった。おそらく、当主の決定には逆らえず、夫人は仕方なく承諾した、というところだろう。笑顔で、「はい、それで結構ですわ」と夫人が答えたのを、そのまま伯爵は受け取ったのかもしれない。黒い感情が夫人の中で渦巻いてることも知らずに。


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