伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「あの、伯爵様……」
「お父様、と呼んでくれるかい?」
「……あ、はい……では……。……お父様」
クレアは、おずおずと伯爵をそう呼んだ。
それは、彼女に初めて父親が出来た瞬間でもあった。
「一つお願いがあるのですが……」
「何だね?」
「……母の遺したお店を続けてもいいでしょうか……? もちろん、お屋敷にご迷惑になるようなことはしません。行きも帰りも一人で大丈夫ですから……」
伯爵は少し考えるように沈黙したが、やがて口を開いた。
「好きにするといい。私もお前からすべてを奪おうとは思っていないよ。あの店は、お前の宝物なのだろうから。……小さいが、温かい店だ」
「あ、ありがとうございます、お父様!」
クレアの表情が明るくなった。ダメだ、と言われたらどうしようかと思っていたので、安心したのもあるが、あの店を誉められたような気がして、母も喜んでいると思ったからだった。
「家の者には、お前のことを話してある。妻は賛成してくれたよ。この家のことは妻に任せてあるから、何でも相談して、頼りなさい」
「はい。ありがとうございます、お父様」
こうして、クレアは住まいをアディンセル伯爵邸に移し、これまでと同じ生活が送れることになった。
その日は一旦帰り、持っている中で一番大きなかばんに荷物をまとめて、翌日、これまで借りていた部屋の大家に別れを告げ、伯爵家の迎えの馬車で、屋敷に入った。
最初にメイドに案内されたのは、伯爵夫人の待つ部屋だった。
「奥様、クレア様をお連れいたしました」
「入りなさい」
中から、落ち着いた女性の声がした。
クレアは緊張で表情を強張らせた。
……お父様は、夫人も賛成してくれた、って仰っていたけど……私を気に入って下さるかな……?
広い部屋に入ると、そこには上質のドレスを身にまとい、髪を高く結い上げた一人の貴婦人がソファーに座っていた。
伯爵夫人だ。
だか、彼女はこちらには目を向けず、窓の外を眺めていた。
「……は、初めまして……クレアと申します……」
クレアは、かなり控え目に、声を出した。
「お父様、と呼んでくれるかい?」
「……あ、はい……では……。……お父様」
クレアは、おずおずと伯爵をそう呼んだ。
それは、彼女に初めて父親が出来た瞬間でもあった。
「一つお願いがあるのですが……」
「何だね?」
「……母の遺したお店を続けてもいいでしょうか……? もちろん、お屋敷にご迷惑になるようなことはしません。行きも帰りも一人で大丈夫ですから……」
伯爵は少し考えるように沈黙したが、やがて口を開いた。
「好きにするといい。私もお前からすべてを奪おうとは思っていないよ。あの店は、お前の宝物なのだろうから。……小さいが、温かい店だ」
「あ、ありがとうございます、お父様!」
クレアの表情が明るくなった。ダメだ、と言われたらどうしようかと思っていたので、安心したのもあるが、あの店を誉められたような気がして、母も喜んでいると思ったからだった。
「家の者には、お前のことを話してある。妻は賛成してくれたよ。この家のことは妻に任せてあるから、何でも相談して、頼りなさい」
「はい。ありがとうございます、お父様」
こうして、クレアは住まいをアディンセル伯爵邸に移し、これまでと同じ生活が送れることになった。
その日は一旦帰り、持っている中で一番大きなかばんに荷物をまとめて、翌日、これまで借りていた部屋の大家に別れを告げ、伯爵家の迎えの馬車で、屋敷に入った。
最初にメイドに案内されたのは、伯爵夫人の待つ部屋だった。
「奥様、クレア様をお連れいたしました」
「入りなさい」
中から、落ち着いた女性の声がした。
クレアは緊張で表情を強張らせた。
……お父様は、夫人も賛成してくれた、って仰っていたけど……私を気に入って下さるかな……?
広い部屋に入ると、そこには上質のドレスを身にまとい、髪を高く結い上げた一人の貴婦人がソファーに座っていた。
伯爵夫人だ。
だか、彼女はこちらには目を向けず、窓の外を眺めていた。
「……は、初めまして……クレアと申します……」
クレアは、かなり控え目に、声を出した。