伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
これにはライルの方が驚いた。

完全に頭が冴え、目も覚めた。

クレアは無邪気な寝顔をさらして、再び深い眠りについている。

……警戒されていないのか。

叫ばれなくてホッとしたが、男として、それはそれで何だか腑に落ちない。自分勝手だとは思うが。

とにかく、ここから去って、頭を冷やそう。

ライルがクレアの体に回した腕を抜こうとした時。

「……ん……」

無意識にクレアの口からわずかに声が出た。

その、さくらんぼのような色をした唇が少し開いている。誘われているような感覚が頭を支配する。

離れることを躊躇してしまう。

「……」

ライルはため息をついた。それは、愚かな自分に対してだ。




「……君が悪いんだからな……」



考えることを放棄したライルは、男の顔になると、そっとクレアの唇に自分のそれを重ねた……。


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