伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
休みを返上させ、半ば強制的に淑女教育のレッスンを受けさせている。慣れないことばかりで苦しいだろうに、クレアは弱音一つ吐かずに、こちらの要求に応えようと、懸命に努力してくれている。

クレアよりも遅く帰宅した際は、ちゃんと玄関で、「お帰りなさいませ」と、はにかむように笑顔で出迎えてくれる。

「ただいま」と、頬にキスを落とすと、たちまち顔を赤らめる。その姿が可愛くて、唇を塞ぎたくなる衝動を何度抑えたことか。

だが、きっとクレアはそれを望んでいない。ライルからクレアに触れることはあっても、その逆は無いからだ。

いつか、俺に触れてくれる日は来るだろうか……。

抱きしめる腕に力が入る。クレアの体の柔らかさと共に、温かさが伝わってくる。不思議と心が落ち着いて、ライルも徐々に眠気に襲われた。




どれくらい時間が経過したか、腕の中のクレアが少し動いたのを感じて、ゆっくり意識を取り戻した。だが、疲れのせいですぐに体を動かせず、瞼を上げることも出来ない。

……ああ、きっと驚いてるんだろうな……。

クレアが自分の腕をどけようとしていることが分かった。

この状況では、叫び声を上げられるかもしれない。暴れられて、殴られても文句は言えない。軽蔑されて嫌われてしまうのは辛いが、自分の蒔いた種だ、仕方ない。

絶対にそうなるだろうと、まだ完全に回っていない頭の中で、彼女の心が離れていくのを覚悟していたのだが。

なぜか、彼女はそのまま大人しくなり--しばらくすると、また元の通りに寝入ってしまった。



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