同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


しかしそんな空気をものともせず、沙弓さんが軽やかな足取りで私のもとに歩み寄ってきた。


「ごめんなさい、今日は憧れの会社を見られるということで緊張していて、お昼にお茶を飲み過ぎてしまったみたいで……トイレの場所まで案内してもらってもいいですか?」


うう、沙弓さんの爽やかな笑顔が怖い。お茶を飲み過ぎたとか、きっと嘘だよね……?

トイレで何するつもりだろう。私の方が年上のはずのなのに、怖い先輩に呼び出された下級生の気分だ。


「八重ちゃん、先に戻ってて。私、トイレの場所教えてくる」

「はい……わかりました」


八重ちゃんは心配そうに表情を曇らせながらも、ぺこりと頭を下げてこの場から離れていく。


「……どうぞ、こっちです」


私はびくびくして真正面から沙弓さんを見ることができないまま、彼女を連れて廊下の端に位置するトイレへと向かっていく。

直接見たわけじゃないけれど、比留川くんの視線が痛いくらい背中に刺さるのを感じた。

私の身を案じてくれている……わけないか。逆に私の方が彼女に意地悪しないか心配なのかもしれない。

あー……だめだ。勝手に根拠のないことを想像して落ち込むのはやめよう。

考えすぎると午後の業務に影響する。


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