同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
こんな時に限って、女子トイレには誰もいなかった。
私はとりあえずお互いが顔見知りであることに触れず、たまたま居合わせた社員のふりで当たり障りのないことを言ってみる。
「終わったら、早めにさっきの社員のところに戻ってくださいね。では、私はこれで――」
そして彼女の返事を聞く前に、さっそうとトイレから逃げようとしたのだけど。
「……いやいや、トイレなんて口実に決まってるじゃないですか。難波みちるさん」
さっきより一オクターブ下がったんじゃないかと思うくらい豹変した声に、びくっと肩が震える。
こ、ここ怖い!
やっぱり私に何か話があるんだ。何かっていうか完全に比留川くんのことだろうけど、私はもう彼と何の関係もないよ……。
トイレの手洗い場で沙弓さんと向き合う私は、蛇に睨まれた蛙のごとく身をすくませる。
そんな私をおかしそうにフフッと笑って、砕けた調子で彼女が話す。
「あの、私は別に年上のお姉さんを苛める趣味があるわけじゃないので、そんなビビんないでくださいよ」
「び、びびっているわけでは……ない、です」
弱々しい反論は自分で聞いても全く説得力がなくて、情けなくなる。
「私はただ、みちるさんが知らない迅の本性を教えようと思ってるだけなんです」
「比留川くんの、本性……?」