同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
ある意味沙弓さんのおかげで大切なことに気が付けた。
比留川くんにも、今まで自分を偽っていたこと、改めてちゃんと謝りたい。
それで、すぐには難しいかもしれないけど、これからも良き同僚としてよろしくねって、明るく言えるようになれればいいな……。
そのためにも、仕事を頑張って、何とか失恋のことは吹っ切ろう。
そう決意して、気持ちも新たに商品開発部のオフィスのドアを開けた。
「戻りました」
相談室の面々に声を掛けて、自分のデスクに着く。
沙弓さんにつかまっていたから戻るのが数分遅くなったことを後悔しつつ、すぐにヘッドセットを装着してかかってくる電話に備える。
それからおよそ二十分ほど経った頃、私のデスクの上で電話の呼び出し音が鳴った。
「お電話ありがとうございます。ミストコーヒーお客様相談室、難波が承ります」
『もしもし、ちょっとお尋ねしたいんですけれど……』
この仕事をしていると開口一番に喧嘩を吹っ掛けられることも珍しくないため、ヘッドセットから聞こえてきた女性の丁寧な口調にまずはホッとする。
優しく少し頼りなげな声の雰囲気から、高齢の方だろうかと推察しながら、耳を傾ける。
『ずいぶん昔に飲んだきり、近所のスーパーで見かけなくなっちゃったコーヒーがあってね。名前も思い出せないのだけど、それがまた飲みたくなったの。取り寄せてもらうことってできるのかしら』