同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


うーん……名前もわからない商品を取り寄せるなんて、正直無理なのですが。と心の中で苦笑を浮かべる。

そんな時、オフィスの入り口がにわかに騒がしくなって、かすかに振り向いた私は少々ぎょっとした。

さっき廊下で会った、比留川くんと就活生の集団がぞろぞろと入室してきたのだ。もちろん、沙弓さんも一緒。

……とはいえ、今は動揺している場合ではない。


「在庫さえあれば、取り寄せることは可能です。ただ、商品名がわからないとなると……パッケージのデザインや、味の特徴を何か覚えていらっしゃいますでしょうか」


女性の回答待つわずかな間でパソコンを操作し、過去から現在に至るまでに発売された家庭用レギュラーコーヒーのデータベースにアクセスする。


『そうねえ……袋は緑色だったかしら。それで、あんまり苦くないの。私、苦いのが苦手だから、それが気に入ってね』

「緑色の袋で、苦みがあまりない……お客様、酸味はどうですか?」


緑色の袋ということは、モカ系のブレンドだ。

画面をスクロールして該当の箇所を見ると、商品の候補は四種類ある。


『少しあったわ。でも、強すぎずいい塩梅で』


酸味は強すぎない……。もしかして、これだろうか。

行きついたひとつの商品情報を眺め、私は少しの間黙りこくってしまった。

なぜなら、そこにはすでに“終売”の文字が表示されていたから。

近所のスーパーで見かけない、というのは取り扱いがなくなったわけでなく、終売になり生産終了してしまった商品だったからなのだ。


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