同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「……お客様、商品名は“やすらぎのモカ”ではなかったでしょうか」
この場合、そうでないほうが嬉しい。そう願いつつ聞いてみるけれど、返ってきたのは期待を裏切る明るい声。
『あ、そうかもしれない。緑色の袋で、なんとなくひらがなの商品名だった気がするもの』
ああ……やっぱりそうだった。
せっかく“うちの社のあの商品が飲みたい”と思って電話をかけてきてくれたのに、終売だということを伝えるのは心苦しい。
「申し訳ございません、“やすらぎのモカ”は現在生産が終了してしまっていて、すでに在庫もない状態です」
『まあ、そうなの……』
女性が落胆する声に、こちらも胸が痛くなってしまう。何かの手違いで、どこかの営業所に在庫が残っていないだろうか。
……いやだめだ、終売になってからもう三年経ってるし、あったとしても賞味期限が持たない。
何かいい手はないかと頭を回転させていると、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。
どう見ても電話中でしょーが! いったい誰……?
若干の煩わしさを覚えて振り返ると、そこにはどうしてか比留川くんがいて。
【やすらぎのモカに代わって、癒しブレンドという商品が出てる。味はよく似ていて、むしろ美味しくなっているはずだから、それを案内して】
彼はそう書かれた小さなメモを、無言で私に手渡す。
私は一瞬呆気に取られて固まってしまうけれど、迷っている暇なんかない。