同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「お客様、“やすらぎのモカ”に代わる商品として“癒しブレンド”という新しい商品が発売しております」
『癒し……』
話しながら、再びパソコンの操作を再開して“癒しブレンド”の情報を出す。
パッケージは緑から赤に変わっていて“モカ”の名も消えている。
その理由も記されていて、モカにしては酸味が控えめだったことが裏目に出て、モカ好きのお客様から物足りないという意見が多数あったからだそうだ。
なるほどね……と自分自身でも納得しながら、癒しブレンドの説明をを始める。
「こちらの風味は“やすらぎのモカ”とよく似ていて、苦みは控えめ、酸味はほどよく、そしてより香りが立つよう改良されております。内容量と価格は“やすらぎのモカ”と変わっておりませんので、よろしければこちらの商品をお取り寄せいたしますが、いかがでしょうか」
お客様が欲しい商品とは違うものかもしれないけれど、これが今できる最大限の提案だ。
祈るように返事を待つ間も傍らで比留川くんが見守ってくれていて、心強さを感じながら、電話の向こうの声に耳を澄ませる。
『じゃあ、それをお願いしようかしら。改良されたんなら、きっと昔より美味しくなっているのよね?』
「……はい! 必ずご満足いただけると思います!」
思わず表情をほころばせて、比留川くんの顔を見上げる。
彼は“よかったな”というように笑顔で頷いてくれ、それから就活生たちを連れて企画課の方へ移動していった。