同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


「……蒲生さん、さっきもこうだったんだよ。でもせっかくの機会だから、何か高木物産への要望があったら伝えてみるといい。じゃあ僕は仕事に戻るから」


え、部長、帰っちゃうんですか……!

吉沢部長は私の縋るような視線には気づかず、颯爽と応接室を出て行ってしまう。


「と、とりあえず、座りましょうか」


いつまでも頭を下げたままの蒲生さんをソファに促して、私たちも彼と向き合うようにソファに腰を下ろす。

蒲生さんはきらきら潤んだ瞳で私たちを交互に見て、喉の奥から絞り出したような声を出す。


「……お二人が、現場の方と真っ向から喧嘩してくださったという、比留川さんと難波さんですか。自分はその話を聞いて感動しました」

「か、感動……ですか?」


怪訝そうに聞き返すと、蒲生さんは大きくうなずく。


「そもそも今回の問題が起きた発端ですが、南米コロンビアの天候不順の影響で、ミストコーヒーさんが必要とする量のニュークロップを当社では輸入できなかったんです。それをまかなう為に、やむを得ず足りない分は収穫時期が少し古いもので補ったわけですが……それを自分がうっかりそちらに報告し忘れまして」


恐縮してすっかり小さくなる蒲生さん。彼の説明を、比留川君が確認するように繰り返す。


「……なるほど。間違って混入したわけではなかったのですね」

「そうです。すぐに、納品に立ち会ってくださった現場の方に連絡を取りました。でも、現場の方はすでに“それでよし”とみなして豆を使用していた。お恥ずかしながら、僕も、それならそれでいい気がしていたんです……さっきいらした、開発部の部長、吉沢さんに連絡をいただくまでは」


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