同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
現場で麻袋を開けて、豆の違いを確認したのが先週の金曜日。その日のうちに、比留川くんは吉沢部長にそのことを報告している。
きっとそのあと高木物産の方にも連絡が行き、週明けすぐにこうして蒲生さんが謝罪と説明に訪れたってわけか。
頭の中でことの経緯を確かめながら、話の続きに耳を傾ける。
「吉沢さんは言いました。風味の差は微々たるもので、重大クレームとは言えないが、豆の違いに気が付いているお客様も一定数いる。現場は生産を強行したようだが、蒲生さんはその行為がお客様を裏切っているとは思いませんか?……と」
なんだか、蒲生さんの語る吉沢部長は普段の彼と違い、厳しい印象だ。
それほど今回の件は、部長も腹が立ったということだろうか。
「痛いところを突かれて何も言えない自分に、吉沢さんはさらに続けました。私の部下に、毎日クレーム処理を業務とし、最もお客様の声に敏感であるお客様相談室の責任者と、実際に商品を企画する部署の責任者がいます。その二人は現場の対応に本気で腹を立て、工場内で喧嘩をしたそうです。喧嘩とは穏やかじゃないですが、私はその二人のしたことを間違っているとは思いません。蒲生さんは、どうですか? ――そう、私に尋ねられまして」
「部長がそんなことを……」
思わず、驚きの声が口からこぼれる。
でも、吉沢部長は本来厳しいところもある人だ。無駄に怒鳴ったり怒ったりしない人だから穏やかそうに見えるけれど、仕事に関しては譲れない部分をしっかり持っている。
加えて、今回は直属の部下である私や比留川くんが関わっていたから、余計に熱くなってくれたのかもしれない。