同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~

感じたことのない怒りが、ふつふつと沸いてくる。

でも、感情のままに口を開いても小梅との溝が広がるばかりのような気がして、俺は一旦彼女に背を向け深く息を吐き出した。


「……ちょっと、外出てくる」


そう言い残すも、小梅からの返事はなかった。

……いったい俺にどうしてほしいっていうんだ。

苛立ちのぶつけどころがなくて、俺はとりあえず別荘を飛び出した。


眩しい陽射しの中を特にあてもなく歩く。

自然と足が向かうのは海のある方向で、しばらくすると砂浜の上に佇む洒落たバーを見つけた。

彼女の妊活に付き合って、酒などもうどれくらい飲んでいないだろう。

別にそれが苦であったわけではないが、今日くらいは解禁していいような気がした。

何でもいいから一杯だけ飲んで……そうしたら、小梅のもとに戻ろう。

けど、俺から酒の匂いがしたら、また喧嘩になるのだろうか。あたしは我慢してるのに、とか言われて……。

もう何度目かわからないため息を吐き出して、バーの扉を押す。

いかにも南国リゾート風の店内はテラスに続く窓が開放されていて、パラソル付きのテーブルでは海を見ながら食事や酒を楽しめるらしい。


「……悪くねぇな」


小さくひとりごちて自分はカウンター席に移動しようと体の向きを変える。

でも、そのとき視界の端に見知った顔が映り込んだような気がして、俺はもう一度テラス席の方を振り返った。


「桃太郎……?」

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