同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


そこには、海風に吹かれて、ひとり酒のグラスを傾ける日本人女性の姿が。

髪型や背格好、何よりあの美貌は(小梅には劣るが)どう見ても俺の元部下、難波みちるに見えるが……連れはどうしたんだ。


「……おい。なんでこんなところで一人でいるんだ」


いくら店内を見渡しても比留川がいないことを怪訝に思い、俺はテラス席まで出て彼女に話しかけた。

俺を見上げた難波の瞳は虚ろで、どうやらすでに結構な量の酒を飲んでいるらしかった。

彼女はしばらく瞬きをした後、ゆっくり聞き返してくる。


「……久我さん、こそ。小梅先輩は?」


ああ……そういや、俺がひとりでいるのも不自然なのか。

俺はふっと鼻だけで笑うと、難波の向かい側の椅子を引いて勝手に座る。

そのときちょうど店員がオーダーを取りに来たので、俺はバドワイザーを注文した。


「……よくわからないが、俺に腹立ってるみたいだ。ちょっと出てくるっつっても無視だったし」

「あの小梅先輩が? ……何しちゃったんですか」

「何もしてねぇよ。……ただ、どうも最近神経質なんだ。不機嫌な日が多くて、正直“腫れ物に触る”的な感覚で接してることもある」

長い結婚生活、こういう時期があっても仕方ないとは思うものの……このままでいいわけはないだろう。

でも、話し合って解決しようにも小梅の情緒が不安定過ぎて……。

そんなことを考えているとビールの瓶が運ばれてきて、俺は鬱々としたものを振り払おうと、瓶に入ったままのビールを煽った。


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