同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「好きな人が怒ってると、つらいですよねぇ……」
酔いでとろんとした瞳を伏せ、ため息交じりに難波がつぶやいた。
「なんだ。お前らもケンカか?」
「そんな大したアレじゃないんですけど……せっかくの旅行なのに彼はサーフィンばっかりしてるし、なんだかうまく嚙み合わなくて。そのうえ、ウィルが宣戦布告しに行っちゃうし……」
「宣戦布告?」
聞き返しながら、グアムに到着してすぐの俺たちを友好的に出迎えてくれた、青い目をした青年の姿を思い出す。
人懐っこく裏のなさそうな男だと俺の目には映ったが、宣戦布告とは穏やかじゃなさそうだ。
「はい。私、さっきまでここでウィルと一緒にいて……実は告白されたんですけどうまく答えられずにいたら、“じゃあジンの方に聞いてくる。ミチルを奪ってもいいかどうか”って言ってお店出てっちゃって……」
「すごい行動力だな。比留川の奴焦るんじゃねーのか?」
「どうでしょうねぇ……」
苦笑を漏らして、テーブルに肘をつく難波。
お互い悩ましい状況だな、と思いつつ黙って彼女を観察していると、次第に瞬きがゆっくりになってくる。
今にも眠気に負けそうだ、と思っているうちに、案の定こっくりこっくりと船を漕ぎだした。
風邪をひくような気候でもないし、このまま寝かせといてやるか……。
そのまま十分くらいが経過した頃、俺たちのテーブルにひとつの人影が近づいてきた。
それが誰であるのか気が付くと、俺は席から立ち上がってその人物のもとへ歩み寄る。
そしてすれ違いざまに、ぽんと肩を叩いた。