同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「比留川、くん……」
頼りない声で呟き、目の前に立つ彼を見上げる。髪は少し乱れていて、息も上がっているみたい。
……もしかして、私を捜すために走ってくれたんだろうか。
「沙弓には、帰ってもらったから。とりあえず、うち行こう?」
私を包み込むような優し気な声に、胸がきゅ、と疼く。
焦った様子で来てくれたことも、その言葉も嬉しい。だけど、いったん後ろ向きになってしまった心が、私を素直にさせてくれない。
「でも……」
私の憧れる、“都会の自立した女”は、ここでどういう態度をとるもの?
少し優しくされただけでほだされるなんて、やっぱり田舎くさい……?
ぐるぐる考えるだけできちんと返事をできずにいると、比留川くんは静かに私の隣に腰を下ろした。
木のベンチがきしむ音がして、私の胸も同時にドキッと音を立てる。
「じゃあ……ここで、少し話すか」
空から降り注ぐあたたかな春の陽射しに目を細め、穏やかな調子で比留川くんが言った。
私、勝手にへそを曲げて、その理由もうまく説明できていないのに、怒らないんだな……。
見捨てて先に帰られちゃうのもショックだけど、こうしてきちんと話をしようとしてくれる姿勢に、過剰な期待してしまう。
もしかしたら私も、比留川くんの特別になりつつあるのかな……って。