ただあの子になりたくて
目の前には一見の二階家。うちの玄関。
扉の上でこうこうと灯る丸い外灯へ、必死に群がる塵のような羽虫がいた。
届きはしないのに、その輝きに魅せられ、手を伸ばしてしまう。
きっと私もそれと変わらない。
シャレにも笑えないまま、扉に手をかける。
照明のついた玄関。下駄箱の上を厚化粧している、黄色いスイートピーのいけられた花瓶。
私は、またかとため息をつき、そそくさと靴を脱ぎ捨てようとした。
「何時だと思ってるの」
冷ややかな声が響き、靴を履いたままとどまる私。
静かに視線を上へと走らせれば、呆れたと言わんばかりに腕組みをするお母さんが、リビングの入り口に立っていた。
リビングの奥の掛け時計は8時35分を指している。
今日も、仕事人間のお父さんはまだ帰っていないようで、ダイニングはもちろん空だった。