ただあの子になりたくて
今、野々原さんに声をかけない方がいいよねという、クラスメイトの暗黙の了解の空気。
こんな時、椿なら自らのミスも笑いに変え、もっと頑張るからねなんて元気いっぱいにみんなに宣言さえしそうだ。
なのに私ときたら、ただしょげて座っているだけ。
みんなに、蒼介にまでも気をつかわせている。
でも、私にはどうしても演じられないのだ。
今も家族の元になど戻りたくないと思っているから。
私は、偉そうに上から楚洲窓からの光を睨みつけた。
すると急に頬がひやりとして、私は体を跳ねさせた。
驚きで飛び上がる私に、隣から笑いかける爽やかな茶目っ気たっぷりの顔。
「元気出せよ。これ、拓斗から俺らに差し入れだって」