ただあの子になりたくて


けれど、こんなにも見えるものなのだ。

ひとつの明かりも付けていないのに、そこは十分すぎるほど見渡せた。

私は密かに目をみはり、リビングのさらに奥を、入り口の陰から見つめた。

「意地を張ってもしょうがないだろ。また倒れたらどうする? 寝室で休んで来い」

低く沈んだ声が、物静かなリビングによく響く。

窓に近い場所で、メガネのレンズが青白い光を放った。

微動だにしない大きな背中。

声も顔も無表情。

こんな時までとことんお父さんらしい。

すると、二人掛けのソファーの方から衣ずれの音が聞こえて、私はかたく口を閉ざす。


< 227 / 318 >

この作品をシェア

pagetop