ただあの子になりたくて


前にもこんなことがあった。

こんな風に覗き見たのは、2人の口ゲンカをまだ恐ろしく感じていた子供の頃だろうか。

あのとき私は、パジャマで、今日のように裸足で、小さな体を壁に限りなくくっつけていた。

寒々しい蛍光灯の明かりがついたリビングン真ん中で、2人は歯をむき出して、大声を出し合っていた。

私は止めに入る勇気もなくて、ただ怯えながら、バレないようにしゃくりあげそうな声をおさえていた。

ただただ、争わないでほしいと願っていた。

でも今の私はそんなことを思わない。

慣れてしまったからだ。

私は静かに壁へ張り付き、淡々と2人の様子をうかがう。

お母さんの細い体の影が、激しくひるがえる。


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