ただあの子になりたくて
「ありがとう、拓斗」
私が自分の体に戻れたら、この言葉が拓斗と交わす最期の言葉になるかもしれない。
急に湧き出してきそうな涙をこらえる。
そんなこととはつゆほども知らない拓斗は、親指を突き立てて私を見送っている。
そうだ。
ナンパな拓斗に涙は似合わない。
私が私であったころ、拓斗とは唯一軽口をたたきあった。
しんみりするなんて柄ではない。
私も親指を立てた手を、背中の拓斗に向かって威勢良く掲げる。
「うん! 楽しんでくる! またね!」
これが私の選んだ別れの言葉。
拓斗に元気いっぱい手を振って、光であふれるステージ目がけ一直線に飛び込んでいった。