愛と音の花束を
「では、何か曲を弾いてみてください」
椎名氏は「はい」と返事をし、譜面台に楽譜を広げた。
曲を用意してきてもらうことは前もって伝えておいた。
彼が弾き始めたのは、
……ハイドンのセレナーデ。
正確には弦楽四重奏曲第17番第2楽章のファーストヴァイオリンのメロディ。
簡単で美しいメロディは、確かに初心者でも弾ける…………のだけど。
…………。
…………何これ。
身構えていた私の耳に、予想と異なるものが入ってきて、戸惑った。
…………ちゃんと曲になってる。
音程がたまにぬるいけど、初心者にありがちな、聴いてる方がハラハラするイタい感じがない。
リズム感がよくて安心して聴けるのと。
自信を持ってしっかりした音を出しているのと。
長い音符には、ゆっくりだけどきれいな腕ビブラートがかけられているのと。
あとは、何ていうか…………、
…………雰囲気。
音楽してます、きれいな曲弾いてます、って雰囲気を醸し出してるのだ。
…………何なの、これ。