愛と音の花束を
動揺する私をよそに、手を離した椎名は何食わぬ顔で、

「東京にはよく来るの?」

と言った。

私は懸命に自分を落ち着かせる。

「あまり来ない。どうしても聴きたいコンサートがある時くらい」

「どこか行きたいところ、ある?」

「……特には……」

「夕方まで時間は大丈夫?」

「うん」

「動物園と美術館と博物館だったらどこに行きたい?」

なるほど、上野公園が近くだ。

動物園はいかにもデートっぽくて恥ずかしいし、
美術館は絵画とか彫刻とか見てもよく分からないし、
博物館は難しそう。

「……それだったらミュージアムショップに行きたい」

内心おそるおそる提案してみると、

「お、なるほど。いいね。俺もああいうところ好き」

嬉しそうに受け入れてくれて、言ってみてよかったとほっとする。


食事代は、どうしても椎名が払うといってきかなかった。
前の私だったら絶対折れなかったのに、今の私ときたら、ここで強情を張ると嫌われるかなとか考えてしまう。


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