愛と音の花束を

市民オケでは、椎名はもうすっかり手がかからなくなっていた。

話しかける必要もない。
ということはきっかけがなくては話せないという状況。

新しく入った女の子に笑顔で話しかけているのを見て、胸がチクリと痛む。

あーあ。こういう感情を抱くのが、嫌だったのに。
やっぱり深入りしない方がいいのかな。


でも練習が始まってしまえば、そんなこと考える暇もないくらい忙しく、練習後にはそんな気力も起きないくらい疲弊していた。

メンコン、本番指揮者である早瀬先生と、ソリストである三神君との初合わせまで、あと数回の練習しかない。
それなのにオケの大多数は何だかのんびりしている。
三神君がいないと、だらけるというか締まらないというか……。私ごときではやはり、三神君の存在感には太刀打ちできない。

分かっていたけど、へこむな……。

せっかくマッサージしてもらってほぐれた身体も、今日の練習でまたバキバキになってしまった。
帰ってストレッチしよう。

部屋を出ようとすると、ちょうど椎名と一緒のタイミングになった。

……少し、嬉しい。

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