愛と音の花束を
名残惜しそうな拍手は続いたけれど、さすがにアンコールはなく、舞台上は次のグループのセッティングに移った。

「かっこよかったねぇ、椎名君!」

隣の環奈が興奮したように小声で叫ぶので、冷たく返す。

「知ってたでしょ」

「何のこと〜?」

そうでなければ、前の方、しかもピアノの鍵盤がよく見える席に座ろう、なんて言わない。

まあ、近くで見られたからよかったけどね。


思い返せば、彼が他の楽器経験者であるヒントはここかしこにあった。

最初に会った時、自己アピールで楽譜が読めるって言ったこと。
音感やリズム感や音楽センスがいいこと。
暗譜や初見能力が高いこと。

どうりでヴァイオリンの成長曲線が半端ないわけだ。

『報われるまでに膨大な努力が必要』
『何百回もさらって、つらいけど楽しいとか、オレってマゾだな〜って』
『弾けたら楽しいと思う』

言葉の端々にさえ、ヒントはあったのに。


昔、暁が言ってたことを思い出した。

『結花は物事の裏側を見ようとしないタイプだよね。見えるものだけを素直に受け取るタイプ。あ、悪い意味じゃなくて。僕は結花のそういうところに惹かれたんだよ』

最後の言葉が嬉しくて前半部分はすっかり忘れていた。
自分はバカだと思ってたけど、ほんとにバカだなぁ。



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