愛と音の花束を


次の水曜日。
今日からいよいよ曲の練習が始まる。

公民館の大部屋に入ると、早く来ている何人かで椅子並べを始めたところのようだった。

椎名もいる。

よし。感心。

倉庫からパイプ椅子を出し、オーケストラの形にセッティングする作業は、早く来た人でやることになる。

新入りとしてはできるだけそこから参加した方がみんなに溶け込めるし、他のパートからの覚えもいい、と最初に伝えたことを実行してくれているらしい。


椅子を並べ終わったら、各自音出しを始める。

私は椎名の所へ。

「今日はシェヘラザードが先です。降り番部屋は隣です」

曲に乗らない人のことを降り番と呼ぶ。降り番部屋とは、その人達の控え室みたいなもの。

「そこで練習してもいいですが、できれば……」

「見学したいです!」

椎名はジャーン!という効果音が聞こえるかのように、シェヘラザードのスコアをバッグから出した。

「指揮の見方とか、トップのアインザッツの出し方とか、どんな風に練習が進むのかとか、いろいろ勉強したいので、見学させてください!」

……言おうと思っていたことを先に言われた。
それにしても乗らない曲のスコアを持ってくるとは思わなかった。

「どうぞ。いい心がけですね」

褒めるべきところは褒める。
またも若干棒読みになってしまったけれど。

「それと、コンマスソロ聴きたいし」

彼はそう言っていたずらっぽく笑った。
ほんと、よく笑う人だ。
人生楽しそう。
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