愛と音の花束を
……わぁ、ちょうちょだ。


軽やかに奏でられる旋律に蝶をイメージさせられるのはもちろん、右手と左手がそれぞれヒラヒラと舞い踊るのが、蝶に見える。

耳に聴こえるのは可愛らしい主旋律。でもその裏には分厚い装飾音の波。2人で弾いてるのかと思ってしまうくらいに何重にも彩られている伴奏。

聴こえるほどに簡単な曲ではないのだろうと思う。

でもそんなことを感じさせず、可憐に、軽やかに聴かせるとは、この人、本当にピアノ上手いんじゃない?

最後はふわっとオシャレに短い曲が閉じられると、客席から大きな拍手が沸いた。

「すごいすごい椎名君! バタフライ、Allegro assaiで弾ききっちゃった! しかもミスタッチなし! あれ、右手の力抜いて手首のスナップきかせた上で三度とオクターブ素早く捉えられないと弾けないのよ! 超上手い!」

ピアノについてもマニアックに詳しい環奈が隣で興奮している。

Allegro assai=充分に快速に。
つまりはすごい速いスピードですごい難しいことをやった、ということらしい。

技術的なことはよく分からないけど、

……かっこよかった。

笑顔で拍手に応える那智を見ながら、あそこに至るまでの練習量に想いを馳せる。

すごいなぁ。
引くどころか、惚れ直す……って、何度目だ。

長い間恋愛から遠ざかっていたせいか、今度の恋愛はものすごく濃くなりそうな予感に、心の中で苦笑する。

引かれるかも、と心配しなきゃいけないのは、私の方かもしれない。




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