愛と音の花束を
そんなことを考えていると、取次と挨拶を終えた三神君が私のもとへやってきた。

「お楽しみいただけましたか?」

にっこり笑うけれど、その笑顔にはもう騙されないわよ。

「私、サプライズとか好きじゃないんですが」

「こじれた関係を恋愛に発展させるには劇的な出来事が必要かと思いまして。とはいえ、その演出をする前に恋愛関係が成立したようですので、単なる椎名さんの秘密公開になっちゃいましたね」

なっ⁉︎

「ゲネプロで椎名さんの演奏がガラッと変わりましたので問い詰めさせていただきました。おめでとうございます」

「……それはどうも」

「以前に言った、椎名さんと僕の本質が似ているという証明、ちゃんと成立したでしょう?」

「……その頭、もっと別のことに有効活用した方がいいんじゃないですか」

「お誉めいただき光栄です。では、行きましょうか」

「どこへですか?」

「感動のご対面ですよ。彼の本番はまだ続きますから、あまり時間はありません」

……は?
本番はまだ続くって、今度は何を企んでる?

「行ってらっしゃ〜い」

環奈がひらひらと手を振った。




我々が向かった先は、練習室。

三神君はドアをノックし、返事を待たずに開けた。

ガラン、とした練習室の真ん中に置かれたグランドピアノ。
礼服のまま鍵盤の前に座っている那智が、こちらを見た。

胸がぎゅっとなって、顔が熱くなる。

三神君はドアを押さえ、私に、どうぞ、と中に入るよう示した。
そして、那智に向かって、
「準備が整ったらお呼びします」
と声をかけて、ドアを閉めた。
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