愛と音の花束を

「あ。噂をすれば」

那智が帰り支度をしてホワイエに上がってきた。
三神君とフランクを弾いた時のスーツ姿。

盛大な拍手に迎えられ、びっくりしたような表情を見せて立ち止まった後、苦笑しながらいろんな方向に会釈を返した。

環奈が大きく手を振ると、那智がこっちを見た。

目が合う。

瞳が不安そうに揺れたのがわかった。

……仕方ないな。

私は近くのテーブルにあったグラスに烏龍茶を注ぎ、彼の元へ向かった。

那智が私の表情や雰囲気から感情を探っているのがわかった。

だから、できる限りの優しい表情で、好き、の気持ちをこめて、

「お疲れ様」

と言いながら、グラスを差し出した。

「……ありがと」

那智はほっとしたように笑いながらグラスに手を伸ばし、そっと、私の指に触れながら、グラスを受け取った。

……触れられた箇所が熱くて、またも、バカみたいにドキドキする。

那智は一気にお茶を飲み干すと、近くのテーブルに置いた。

「紹介したい人がいるから、一緒に来てくれる?」

荷物をみんなと同じく壁際に置いてから、向かった先は、

ロマンスグレー紳士と、
例の、那智と結婚式場にいた長身の美女。

なぜか早瀬先生もやってきた。
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