愛と音の花束を

大部屋は、団員みんなの期待感で満ちている。
最初の合奏はいつもワクワクするものだけど、今日は特別。

そう。さっき椎名も言っていたけれど、シェヘラザードで、コンマスのソロがたくさん聴けるからだ。

管楽器の降り番の人は通常、降り番部屋と呼ぶ別室で練習していることが多いのだけど、彼らまで後ろにずらりと並んでいる。


交響組曲『シェヘラザード』第一曲。

短い序奏の後、

コンマスソロ。


最初の二分音符、E(ミ)の1音で、
辺りは夜になった。


いや、元々夜なんだけど、アラビアの香り漂う夜。


やっぱり別次元に上手いなぁ、と思う。

私達一般人と比べるとよくわかる。

“聴かせる”演奏なのだ。

周りの耳を奪う。

その場の雰囲気をガラリと変えてしまう力がある。

そして、音が、音楽として、立体的に組み立てられている。
厚みがあるというか深みがあるというか。

ああ、三連符の歌い方が絶妙。鳥肌がたつ。

彼がすごく練習してるのは知ってる。
だけど、私がいくら練習しても、彼のようには弾けない。
彼は音楽の神様に愛された人なのだ。

––––才能。

その言葉の意味を思い知らされる。

『親バカと思われるかもしれないけど、息子のヴァイオリン聴いてると、才能ってこういうことなんだなぁ、って思うの』

三神さん。
半年先、ホールでこの響きを聴ける日が楽しみですね。


さて、この“掃き溜めに鶴”状態で、我々は掃き溜めから脱すべく、頑張っていきましょうか。
ほら、後ろ、聴き入ってぼーっとしてないで、いくよ!



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