おためしシンデレラ


莉子がトレイに丁寧に入れた玉露と三村のお気に入りの和菓子をセットして社長室をノックするけれど返事はない。

悪いけどそれも想定内ですよ、社長。

足を組んで椅子に座り、ドアに背を向け大きな窓のほうに身体を向けている。

気にせずドアを開けて大股で三村のデスクに近付いて行くとくるりと椅子ごと振り返って三村が莉子をジロリと睨んだ。

3年前なら竦み上がったんですけどね、と心の中で言いながらトレイをデスクに置く。

市ノ瀬は30代半ば、子供が一人いるシングルマザーだ。たしか子供は3歳だったか。

それが今朝から子供が熱を出したため、会議の開始を遅らせて欲しいと連絡があったのだ。

社会人として甘い、と言われれば甘いのだろう。

けれど実際問題として病気の3歳児を一人家に残して来るわけには行かない。それに市ノ瀬は『遅らせてください』と言ったのであって決して『中止にしてください』と言ったのではない。そこに市ノ瀬の何とかしようと打開策を講じる姿勢が見えるではないか。
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