オレンジの雫
約束
それから毎日、セシーリアは、夜になるとそっと屋敷を抜け出して、あの大きなオレンジの木の下で、ジェレミヤと会うようになった…

地中海からの乾いた風と、月明かりの下で、まるで子供のように膝を抱えて、セシーリアは彼の話に聞き入っていたのである。

彼が語るモロッコの話は、まるでおとぎ話のような別世界。

水煙草を吸う男性達…

白く四角い建物…

きらびやかなイスラム教のモスク…

白い建物の合間を縫うように狭い路地に立ち並ぶ沢山の店…

砂漠の中に咲くという、砂の薔薇…

優しく語る彼の言葉は、いつしか彼女の心を虜にしていった。

月明かりに照らし出される彼の横顔を見つめながら、セシーリアは、毎晩のように、空想の甘い世界に酔いしれたのである。

ゆったりと打ち寄せる凪いだ波のように、ゆらりゆらりと、彼女の心に打ち寄せる、ひどく甘美でどこか切ない、その不思議な感覚。

ジェレミアは、軽々しく彼女の体に触れてくる街の青年たちとは明らかに違い、いつも、その純粋な瞳で彼女の見つめるだけだった。

その眼差しが、セシーリアの心に漣を立てる。

やがて、語りべたる彼にその心はたなびいて・・・

その思いはまるで体を焼きつかせるように、セシーリアを支配していった。

月明かりをまとう夜風が、オレンジの葉を揺らして、通り過ぎていく…

収穫の時期が過ぎれば、彼はまた、モロッコへ帰ってしまう…

その切なさは、日毎に彼女の心を締め付けていった。

それは、とても綺麗な満月の夜だった…

いつものように、オレンジの木の下で会った彼に、セシーリアは、いつになく切ない顔をして、膝を抱えたままこう問いかけたのである。

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