彼女と傘と紫陽花と


 今年も彼女がやってきた。僕の心は踊りだす。

 やってきたのはやはり梅雨の季節で、彼女の差す傘は目の覚めるような赤だった。
 去年肩先で揺れていた髪の毛は更に伸びていて、ワンピースの背中をサラサラと撫でている。

 手には今年も大切そうに紫陽花を抱いていたけれど。今年の紫陽花は傘の色に合わせたように赤に近いピンクのような、赤紫とでも言うのかな、そんな色合いだった。
 僕にはその辺の色の事はよくわからないけれど、二年続いた青系のあとの赤系はとても新鮮に感じられた。

 去年よく見られなかった彼女の瞳は、赤い傘から今はしっかりと覗いて見えたのだけれど、大きな瞳がなんとも悲しげだ。

 泣いているの?

 潤んでいるような瞳に気を取られ、僕の足は自然と彼女へ向かう。
 スニーカーは雨でじっとりとしてきていたけれど、彼女のあんな悲しそうな表情を見てしまっては、それどころではなかった。
 水たまりに足を踏み入れても、泥がスニーカーを汚してしまっても。今の僕にそんなことはどうでもよかった。


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