拗らせ女子に 王子様の口づけを

「さっきまでの打ち合わせ、梨花の紹介だったんだよ。
初顔合わせだったから梨花も一緒に居て、今から沙織とメシに行くからって誘ったんだよ。
お前ら知り合いだろ?
仲良くしてもらってるって梨花も言ってたし、人数多いほうが楽しいじゃん」


嬉しそうに、楽しそうに、どや顔で話す奏ちゃん。
頭から一気に氷をかけられたみたいに表情の固まった私に気づきもせず、奏ちゃんはニコニコ笑っている。

「奏輔から早川さんと会うって聞いて、参加させてもらっちゃいました!一回ゆっくりお話したいなって思ってて。
って、早川さん今日凄く可愛い!いやーん」

「さっ、行くか。遅くなるしな」
「奏輔、行く店決まってるの?」
「あぁ、ホテルオーラルのレストラン。なっ沙織?」
「はっ?ちょっ、なんでそんなとこなの?」
「今日沙織の誕生日なんだよ。誕生日祝い。沙織が行きたい場所なんだよ」
「えぇっ!ちょっ、私今日はいいよっ、又別の日に早川さん誘うから。今日は奏輔と二人で行ってきなよ」
「はぁ?何でだよ。誕生日なんだから楽しいほうがいいんじゃねぇの?なぁ沙織?」
「はぁ?あんたバカじゃないの?」
「なんだよ、バカって。あっ、今日は、俺が奢るから遠慮すんなよ。この前の家の事してくれた礼だ、礼」
「…………っ、本当バカだ」


目の前で繰り広げられる奏ちゃんと秦野さんのやり取りをぼんやりと見つめることしか出来なかった。
ただ、秦野さんの言うとおり奏ちゃんはバカだって事だけは分かった。
いや、知ってたけど。
改めて、バカだって思った。


全く反応のない私にやっと気付いた奏ちゃんが私を見た。

「沙織?どうした?あっ、今日の格好すげぇ可愛い。さっ行くぞ?」

そう言って満面の笑みを見せ、「タクシー拾ってくるから」と車道に向かった。
奏ちゃんが離れた隙に秦野さんが慌てて近くに来て、声を潜めて話しかけられた。

「ごめんなさい!お誕生日だって知らなくて。私は早川さんと話したいだけだから又個人的に誘わしてもらうから、今日は、帰りますね」



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