拗らせ女子に 王子様の口づけを
ホテルオーラルのレストランは素敵だった。
窓際に並んだカップルシートが数席あって、雑誌にかいてあったのはあそこの席だったんだなと眺めながら四人席に通されて、何故か秦野さんと並んで座り、向かい側に奏ちゃんが一人で座っていた。
関係性の見えないこの不思議な席順と、異様に楽しそうにしている奏ちゃんを見ると思わず舌打ちしたくなる。
夏期限定のコースを頼み、シャンパンを口につけながら進む食事は、全く味がわからなかった。
奏ちゃんは一人ニコニコと仕事の話をしたり、私との関係性を嬉しそうに秦野さんに説明していた。
「俺たち産まれたときからの幼馴染みなんだよ」
「沙織は小さいときから可愛くてな、それがこんな大きくなるなんて」
「兄がわりとしては嬉しいよ」
「サオとこんなところで食事ができるようになったんだな」
饒舌に離し続ける奏ちゃんに適当に相づちを打ちながらぎこちない笑みを浮かべる。
「今日は、梨花も都合がついてラッキーだったな。せっかくの誕生日なんだし皆に祝ってもらえて良かったな」
「小学生の誕生日会じゃないっての」
奏ちゃんの頓珍漢な台詞に耐えきらなくて思わず口から不満が飛び出た。
ブッ、と横から吹き出す声がして隣に秦野さんが居ることに今更ながら気付いた。
しまった……。
「ククククク。ごめん、笑っちゃった」
ちょっと気まずく思いながらも小声で
「すみません……」と謝った。
秦野さんは小さく首を左右に振って曖昧に笑い直してくれた。
奏ちゃんは一人「どうした?」と不思議顔だ。
「改めて、突然参加してごめんなさいね」
「いえ、いいんです。バカなのはいつもの事ですから」
「ふふふ。そうね」
そうだった。
私が勝手に秦野さんにモヤモヤしていただけで、元々彼女の印象は凄く素敵な人だったんだ。裏表のないさっぱりとした性格で仲良くさせてもらっていたんだった。