クールな御曹司と愛され政略結婚
ショックで驚きの声ひとつ出なかった。

灯、なにか言ってよ、なんて他力本願なことすら考える。



「だって、灯は」

「あ、私は心と身体さえもらえればいいんだ。夫婦とか、そんな型はいらない」



いらない。

そうひらひらと手を振ってみせる姉に、激情が湧き上がってきた。


私だっていらないよ。

心と身体をもらえるんなら、そんなものいらない。


だけど、心が別のところにあるって知ってたから。

灯が全部は私のものにはなってくれないのを、わかっていたから。


──だから、型だけでも手に入れるしか、なかったんじゃないか!



「まあ、決めるのは灯だけどね」

「要子、ふざけるのもいい加減にしろ」

「灯は唯子が大事だよね」

「当たり前だろ」

「私より?」

「…なにかと比べたことなんかない」



姉の飾らない大笑いは、誰もいない道に響いて消えた。

よほどおかしかったらしく、くくくと肩を震わせて、涙を拭う。



「惜しいなあ。一瞬、模範解答にも思えるんだけどね。灯もまだまだだ」



灯は警戒の色を見せて、慎重になにも言わない。



「女はね、"世界で一番好き"なんて言われるより、"あの子より好き"って言われたい生き物なんだよ」



腕を組んで、なにかを判じるように私と灯を交互に眺め、姉は言った。



「こりゃ、私の入る余地もありそうだね」
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