クールな御曹司と愛され政略結婚
私はふたつのスーツケースを寝室の隅に寄せてから、パンツを履き直して灯の隣に潜り込んだ。

カットされるとばかり思っていた、私がカメラに頭突きするシーンが、まさかの採用となったのだ。

にやっと笑って、炎天下でぴかぴか光るおでこを突き出している様は、滑稽以外の何物でもなく、スタッフ全員の爆笑を生んだ。



「いいけどね、みんなが楽しんでくれるなら」

「お前、仕事場でもいい具合にくだけてきたよな、よかった」



うつぶせの灯が、私を片腕で抱き寄せてくれる。

やっぱり、気にしていてくれたんだな。



「お姉ちゃんに、もう近づかないよって言われたのって、いつ?」

「なんだ、急に?」

「いいから、いつ?」



うーんと髪に手を突っ込んで考えている。



「大学、2年か3年あたりかなあ…向こうもまだ学生だったと思うから」



やっぱり。

姉はおそらく、私が灯のことを、本気で好きになってしまったことに気づいたから、灯で遊ぶのをやめたのだ。

まったくもう、私はなにもかも、姉にお膳立てしてもらって生きている。



「なんだ?」

「なんでもない」

「要子と仲よくしてやれよ、あいつ、唯に悪い影響が出ないようにって、お前をかまうの、昔からすごく我慢してたんだぜ」

「え?」



灯が枕に頬杖をついて、こちらを見る。



「お前は素直だったから、自分が近づきすぎて感化しちゃまずいって」

「…お姉ちゃんって、そんなに悪かったの?」

「まあ、けっこうあれこれやってた。自分が異質なのを、自覚してたんだろうな」
< 185 / 191 >

この作品をシェア

pagetop